リフローとは

リフロー(Reflow)とは、プリント基板(PCB)上に配置された電子部品とパッド(配線)を、クリームはんだを加熱・溶融して接合する工程を指します。表面実装技術(SMT: Surface Mount Technology)の中核プロセスのひとつで、温度管理されたリフロー炉を用いて加熱・冷却し、はんだを固着させることで電気的・機械的な接続を行います。
この工程は1980年代より普及し始め、従来の挿入実装(スルーホール実装)に代わる技術として発展してきました。現在では、スマートフォンや車載ECU、産業機器、医療機器など、ほぼすべての電子製品における実装品質を左右する重要な製造ステップとなっています。
特に近年の電子機器の小型化・高性能化に伴い、部品の微細化や実装密度の向上が進む中で、リフロー技術の重要性はますます高まっています。精密な温度制御と品質管理によって、数千点におよぶ微細部品を一度に確実に接合できる点が、この技術の最大の特長です。

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リフローの目的

リフロー工程の主な目的は、次のとおりです。

クリームはんだを溶融し、部品とパッドを接合すること

  • 加熱によってはんだを溶かし、冷却時に部品を確実に固定します
  • はんだの界面反応によって、強固な金属結合を形成します
  • 電気的・機械的な接続を同時に実現します

量産工程における安定的かつ均質な接合を実現すること

  • 複数の部品を同時に接合することができ、生産効率に優れます
  • 人手によるばらつきが少なく、一定品質の製品を量産できます
  • 自動化ラインとの親和性が高く、効率的な生産が可能です

部品のずれ・はんだ不良の最小化

  • 加熱プロファイルの最適化により、ブリッジやボイドなどの不良を抑制します
  • はんだの表面張力により、部品の自己整合(セルフアライメント)が期待できます
  • 適切なリフロー条件によって、長期信頼性を確保できます

リフローの主なメリットとデメリット

メリット

1. 高密度実装の実現

小型部品の実装に適しており、高密度な基板設計が可能です。従来のスルーホール実装と比較して、部品搭載密度を2〜3倍に高めることができます。

2. 高い生産性

一括処理によって多数の部品を同時に接合できるため、生産効率が格段に向上します。自動化ラインとの親和性も高く、量産に適しています。

3.両面実装への対応

基板の両面に部品を実装できるため、限られたスペースを有効活用できます。スマートフォンなどの小型電子機器の製造には不可欠な技術です。

4. 製造コストの削減

挿入実装と比較して、部品の自動搭載が容易であり、人件費の削減や生産効率の向上によるコスト削減が可能です。

5. 接合品質の均一性

温度プロファイルによる制御で、均一な接合品質を実現できます。操作者の技術に依存しない安定した品質が得られます。

デメリット

1. 熱に弱い部品への影響

高温(最大約250℃)を要するため、熱に弱い部品(コネクタ、一部の半導体など)に損傷を与える可能性があります。

2. 温度管理の難しさ

基板サイズや部品の熱容量の違いにより、均一な加熱が難しく、最適なプロファイル設計に専門知識を要します。

3. 初期投資コスト

リフロー炉や関連設備の導入には相応のコストがかかります。特に多品種少量生産の場合、設備投資の回収に時間を要することがあります。

4. リペア(修理)の難しさ

部品の交換や修理が挿入実装と比較して複雑で、特殊な技術や設備を必要とします。

5. 環境・安全面の懸念

はんだから発生するフラックスガスや、無鉛はんだ使用に伴う高温プロセスなど、作業環境や環境負荷に配慮が必要です。

リフロー工程の流れ

リフロー工程は、以下の加熱ステージを経て、はんだ付けを完了させます。各段階で温度と時間を精密に制御することが、高品質な接合を実現するカギとなります。

1. 予熱(Preheat)

  • 基板全体をゆっくり加熱し、温度を均一化します(通常100〜150℃程度)
  • はんだや部品への熱衝撃を防ぎ、熱応力による基板の反りを最小化します
  • フラックス中の溶剤が徐々に蒸発し始めます
  • 一般的な昇温速度は毎秒1〜3℃程度に制御されます

2. 活性化(Soak)

  • はんだペースト内のフラックスが活性化され、酸化物を除去します(通常150〜180℃程度)
  • 部品と基板の温度差が均一化され、濡れ性が向上します
  • フラックスの酸化物還元作用が活発になります
  • この温度を30〜90秒程度維持することで、安定した接合を準備します

3. リフロー(Reflow)

  • ピーク温度(通常鉛フリーはんだでは230〜250℃程度)に到達し、はんだが完全に溶融します
  • 部品とパッドが接合され、表面張力によって部品の位置が自己調整されます
  • ピーク温度の保持は短時間(10〜30秒程度)に抑え、部品へのダメージを防ぎます
  • はんだの濡れ広がりと金属間化合物の形成が進みます

4. 冷却(Cooling)

  • 加熱を止め、はんだが固化して接続が完了します
  • 急速すぎない冷却(毎秒2〜4℃程度)により、はんだ接合部の結晶構造の安定化に寄与します
  • 冷却速度が速すぎると、はんだクラックの原因となることがあります
  • 最終的に常温まで冷却され、製品として完成します

リフロー工程全体の所要時間は、通常3〜5分程度ですが、基板サイズや部品特性によって最適化されます。近年では、環境負荷低減のための低温はんだや、特殊部品に対応した複雑なプロファイル制御なども研究・実用化されています。

当社で使用している温度プロファイル例

鉛フリーハンダ使用時

  • 予熱温度175℃±15℃、予熱時間90sec±30sec
  • 本加熱温度240℃±10℃、本加熱時間40sec±10sec

共晶ハンダ使用時

  • 予熱温度150℃±10℃、予熱時間90sec±30sec
  • 本加熱温度220℃±20℃、本加熱時間30sec±10sec

ゾーン数はリフローによって異なるため、基本的には上記の範囲に入る様に温度、コンベアスピードを制御しています。特殊なハンダを使用する場合はその限りではありません。

リフロー炉とは

リフロー工程で使用される専用装置が**リフロー炉(Reflow Oven)**です。基板が搬送される過程で、段階的に温度が変化する構造となっています。近年の装置には、精密な温度制御機能や省エネルギー設計、IoT対応による遠隔監視機能などが搭載されています。

ゾーン構成

  • 複数の加熱ゾーン(例:8~10)と冷却ゾーンを持ち、プロファイルごとに温度を制御します
  • 上下独立加熱方式により、基板の上下温度差を最小化できる機種も増えています
  • 小型機では5〜7ゾーン、大型の量産機では10〜15ゾーンまで対応する機種もあります
  • 入口・出口部分には窒素封止用のカーテンやスリットが設けられています

加熱方式

  • 熱風式(ホットエア):空気を循環させて均一加熱。最も一般的な方式です
  • 赤外線式:遠赤外線で加熱。黒色部品に熱が集中する傾向があります
  • 窒素対応型:酸化防止のため窒素雰囲気で加熱。高信頼性要求製品に適しています
  • ハイブリッド型:赤外線と熱風の両方を使用し、効率的な加熱を実現します
  • 真空リフロー:ボイド低減のため、リフロー後に真空引きを行う特殊タイプもあります

搬送方式

  • メッシュベルト式:柔軟性があり、多様な基板サイズに対応可能です
  • チェーン式:耐久性に優れ、大型・重量のある基板にも対応します
  • レール式:基板の両端をレールで支持。たわみに弱い基板に適しています
  • ピンコンベア式:基板下面の部品にも対応可能な特殊な搬送方式です
  • エッジコンベア式:基板端部のみを支持し、両面実装に適しています

近年は省エネルギー性能を高めた装置や、窒素消費量を削減する機構を持つ環境配慮型の機種も増えています。また、Industry 4.0に対応したデータ収集・分析機能を備えた高機能リフロー炉も登場しています。

当社で使用しているリフロー炉例

千住金属製SNR-840GT 基板サイズ最小70×50mm、最大500×400mm、N2有
大規模メンテナンスは半年に1回
EIGTECH製NJ0611M-82-RLF 基板サイズ最小70×50mm、最大500×400mm、N2有
大規模メンテナンスは半年に1回

リフローの管理ポイント

温度プロファイル設計

  • 各ゾーンの温度設定、加熱/冷却速度、ピーク温度などを製品に合わせて調整します
  • サーマルプロファイラを使用して、実際の基板上の温度変化を測定・検証します
  • 部品メーカーの推奨条件や、はんだペーストの仕様に従ってプロファイルを最適化します
  • 基板サイズや層数、部品密度によって熱容量が異なるため、個別の調整が必要です
  • 使用するはんだの種類(鉛含有/無鉛)によってプロファイル条件が大きく変わります

部品への熱影響の考慮

  • 熱に弱い部品(コネクタ、ポリマー材など)は、温度条件や実装順序を工夫する必要があります
  • 大型部品や放熱部品は熱吸収が大きいため、加熱不足に注意が必要です
  • 小型部品は過熱のリスクがあるため、温度上限に注意します
  • 両面実装の場合、先に実装した面の部品が再加熱されることを考慮します
  • 特に熱に弱い部品は、選択はんだやハンダ付けなどの代替工法も検討します

フラックス残渣対策

  • ノンウォッシュはんだの選定や洗浄工程との連携も品質に関係します
  • フラックス残渣が残ると、長期的に接続不良や絶縁劣化の原因となります
  • 特に高湿度環境や高電圧回路では、残渣対策が重要となります
  • 残渣の洗浄が必要な場合は、水系/非水系洗浄剤の選定が必要です
  • 残渣量を最小化するはんだペーストの選定も重要です

リフロー不良の抑制

  • ブリッジ、ボイド、濡れ不良などを防ぐため、設計・印刷・実装・リフローの各工程を最適化します
  • はんだ印刷量の適正化(メタルマスク設計、印刷条件)が重要です
  • 部品配置の正確さを確保するため、実装機の定期メンテナンスと精度確認が必要です
  • 基板設計段階からの対策(パッド設計、部品配置など)も効果的です
  • データ分析によるプロセス管理と継続的改善が不良率低減のカギとなります

リフロー不良の主な例

不良名内容原因例対策例
ブリッジ隣接する端子同士がはんだでつながる過多な印刷、過度な加熱、部品のズレなど印刷量の最適化、部品間隔の確保、適切なプロファイル設定
ボイドはんだ内部に空洞ができるフラックスガスの残留、加熱不足活性化時間の延長、ピーク温度の最適化、窒素雰囲気の活用
濡れ不良はんだが電極全体に広がらない酸化、温度不足、フラックス劣化前処理の徹底、適切な温度プロファイル、はんだの鮮度管理
トゥンブストーニング部品が立ち上がる現象はんだ溶融タイミングのずれ、部品形状の非対称性均一加熱、部品配置方向の最適化、はんだ量の調整
部品クラック熱応力による部品の割れ急激な温度変化、過度な熱ストレス緩やかな昇温・降温、部品仕様の確認と適合
マンハッタン現象チップ部品が持ち上がる熱膨張の差、はんだ量のアンバランスはんだ量の均一化、部品サイズに適したパッド設計
ヒューマンエラー部品の搭載ミスや欠品実装時の搬送ミス、検査工程での漏れなどプロセス自動化、検査体制の強化、トレーサビリティの確保

こうした不良は、適切な設計・準備・管理によって大幅に低減することが可能です。特に量産開始前の十分な試作・検証と、量産中の厳格な品質管理が重要となります。また、最新のAI外観検査装置やX線検査装置を活用することで、初期段階での不良検出と迅速な対応が可能になります。

リフローの応用例・活用シーン

リフローは以下のような製品や分野で広く使用されています。電子機器のあらゆる分野で基本技術として確立されており、製品の小型化・高性能化・高信頼性化に貢献しています。

民生用電子機器

  • スマートフォンやパソコンなどの民生用基板
  • 家電製品(テレビ、エアコン、冷蔵庫など)の制御基板
  • ウェアラブルデバイス(スマートウォッチなど)の超小型基板
  • デジタルカメラやビデオカメラの高密度実装基板

車載電子機器

  • エンジン制御ユニット(ECU)やボディ制御モジュール
  • ADAS(先進運転支援システム)用センサモジュール
  • インフォテインメントシステムの制御基板
  • EV/HV用電力制御モジュール・バッテリー管理システム

産業・医療機器

  • 医療機器に搭載される高信頼性基板
  • 産業用制御装置・FAシステムの電子基板
  • 通信インフラ(基地局、ルーターなど)の高周波基板
  • 計測機器・試験装置の精密電子回路

先端技術分野

  • IoTセンサーノードなどの超小型・低消費電力デバイス
  • 人工知能(AI)チップやグラフィックプロセッサの高性能基板
  • 宇宙・航空機器の高信頼性電子モジュール
  • 5G通信モジュールなどの高周波デバイス

近年は、部品の小型化・高密度化が進み、0402サイズ(0.4mm×0.2mm)やさらに小さな01005サイズの部品の実装も一般化しています。また、環境配慮型の鉛フリーはんだの使用が標準となり、リフロー技術もそれに合わせて進化を続けています。

最新のリフロー技術トレンド

環境対応技術

  • 低温はんだの開発と普及:エネルギー消費削減と熱に弱い部品への対応
  • ボイドレス技術:信頼性向上のための技術革新(真空リフロー、特殊フラックスなど)
  • 窒素消費量の削減:コスト削減と環境負荷軽減のための装置改良

スマートファクトリー対応

  • IoT/AI活用によるリアルタイムプロセス監視と制御
  • デジタルツインによる仮想空間でのプロファイル最適化
  • ビッグデータ分析による品質予測と予防保全

新材料・新技術

  • 高熱伝導性はんだの開発:パワーデバイス向け高信頼性接合
  • 複合材料はんだの進化:強度と柔軟性を両立する新世代材料
  • レーザーリフロー:局所加熱による精密制御技術

これらの技術進化により、リフロー工程は今後も電子機器製造の中核技術として発展し続けることが予想されます。特に環境対応と高信頼性の両立が、今後の重要な課題となっています。