ワイヤーボンディングとは
ワイヤーボンディングは、半導体製造工程において重要な役割を果たす精密実装技術です。ICチップや半導体素子とリードフレーム、基板などの外部端子を微細な金属ワイヤで電気的に接続する接合技術として、電子デバイスの製造に不可欠な工程となっています。
この技術は1950年代に開発されて以来、継続的に進化を遂げ、現在も半導体パッケージングの主流の実装方法の一つとして広く採用されています。スマートフォンや車載機器、医療機器、IoTデバイスなど、私たちの日常生活に欠かせない様々な電子機器に用いられています。
微細化・高密度化に対応しながらも、コストパフォーマンスや量産性に優れている点が特長であり、半導体産業の発展を支える基盤技術として確固たる地位を築いています。
ワイヤーボンディングの目的と特徴
ワイヤーボンディングは、以下のような目的や利点から多くの電子デバイスで採用されています。
- 電気的・機械的な接続の確保
チップと外部回路をワイヤで確実に接続し、信号伝達と電力供給を行います。接合部は機械的強度も持つため、デバイスの耐久性にも寄与します。 - 高い信頼性と品質
確立された技術と品質管理手法により、安定した接合品質が得られるため、車載や医療機器などの高い信頼性が要求される用途にも対応できます。 - 量産性の高さ
自動化された専用装置により短時間で多数の接合が可能であり、大量生産に適しています。一般的な自動ワイヤーボンダーでは、1時間に数千から1万本以上のワイヤー接続が可能です。 - 優れたコストパフォーマンス
他の接続技術と比較して、設備投資や材料コストを抑えることができ、製造コストの最適化に貢献します。 - フレキシブルな設計対応
多様なチップサイズや接続パターン、パッケージ形状に柔軟に対応できるため、幅広い製品設計に適用可能です。
ワイヤーボンディングの種類
使用するワイヤや接合方法により、主に以下の2種類に分類されます。それぞれ特性が異なるため、製品の要件に応じて最適な方式が選択されています。
ボールボンディング(Ball Bonding)
ワイヤの先端をアーク放電や水素フレームなどで加熱し、ボール状に溶かして接合する方式です。熱圧着と超音波エネルギーを組み合わせたサーモソニック法が広く採用されています。
- 主な特徴
- 主に金(Au)や銅(Cu)ワイヤが用いられ、高速処理が可能です微細なパターンに適しており、スマートフォンやメモリなどの高密度製品に多く使用されますループ形状の自由度が高く、複雑な配線が可能です
- 毎秒10本以上の高速ボンディングが可能な装置も存在します
ウェッジボンディング(Wedge Bonding)
ワイヤを押し当てながら圧力と超音波で接合する方式です。ボールを形成せず、先端をそのまま押し付けて接合するため、ウェッジ(くさび)形状の接合部が特徴です。
- 主な特徴
- 主にアルミニウム(Al)ワイヤが使用されます装置構造がシンプルで低コストなため、自動車や産業機器などの用途に適していますループ高さを低く抑えることができ、薄型パッケージに向いています
- 接合面積が大きく、高電流対応の接続に適しています
ワイヤーボンディングのメリットとデメリット
メリット
- 実績と信頼性
長年の実績があり、信頼性データが豊富に蓄積されているため、品質保証が容易です。特に車載や医療機器などの高信頼性が要求される分野で重要な利点となります。 - コスト効率
他の接続技術(フリップチップなど)と比較して装置投資や材料コストが低く抑えられます。特に少量多品種生産や中小規模の製造に経済的です。 - 設計柔軟性
様々なチップサイズやパッケージ形状に対応でき、設計変更にも迅速に対応可能です。試作開発から量産まで幅広く使用できます。 - 工程の安定性
技術的に確立されており、作業者の技能向上や自動化により安定した生産品質を維持できます。 - 後工程との互換性
従来の半導体製造工程と親和性が高く、既存の設備や検査方法がそのまま活用できます。
デメリット
- 占有面積の課題
ワイヤの接続には一定のスペースが必要で、超小型化や高密度実装に制約があります。最先端の超小型デバイスでは限界があります。 - 高周波特性の制約
ワイヤのインダクタンスにより高周波特性が制限され、5G通信など超高周波帯域での使用に課題があります。 - 生産性の限界
高度な自動化が進んでいるものの、フリップチップなどの一括接続技術と比較すると、1チップあたりの処理時間が長くなる傾向があります。 - 材料コストの変動
金や銅などの金属価格の変動に影響を受けやすく、特に金ワイヤ使用時はコスト管理が重要です。 - 環境負荷使用する金属材料の採掘・精製過程や、製造時のエネルギー消費において環境負荷が比較的高いという課題があります。
使用されるワイヤ材料と選定基準
接合に用いるワイヤには、以下のような金属材料が選ばれます。製品の特性や要求される信頼性、コストなどにより最適な材料が選定されます。
材料 | 特徴 | 主な使用分野 |
金(Au) | 酸化しにくく安定性が高い。高価だが信頼性重視の用途に最適。線径は15~30μmが一般的。 | 高性能IC、医療機器、航空宇宙用電子機器 |
銅(Cu) | 高導電性で熱伝導性も優れる。金の約1/10の価格で経済的。酸化しやすいため工程管理が重要。硬度が高く、パッド損傷リスクあり。 | スマートフォン、コンシューマ機器、メモリデバイス |
アルミ(Al) | 安定性が高く安価。ウェッジボンディング専用。Si基板との相性が良く、電極とのガルバニック腐食が少ない。太線による大電流を使用したデバイスに向いている | 車載用ECU、産業用機器、パワーデバイス |
銀(Ag) | 金と銅の中間的特性。高導電性と耐酸化性を併せ持つ。コスト面でも中間的位置づけ。 | 高周波デバイス、LED、新興のパワーデバイス |
合金ワイヤ | 複数の金属を組み合わせた特殊ワイヤ。特定の用途に最適化された特性を実現。(例:金パラジウム合金、金銅合金など) | 特殊環境用途、高信頼性要求製品 |
《一次情報を追記:自社で使用している材料や線径など》
使用ワイヤー種類
金(Au)・・・線径15um~38um
アルミ(Al)・・・線径25um(現時点)
ワイヤーボンディングの工程
ワイヤーボンディングは、以下の工程で実施されます。各工程は高精度で制御され、自動化されています。
- ワイヤ供給とツール装着
- ワイヤをキャピラリと呼ばれるツールにセットし、装置に装着します
- キャピラリの選定は接合品質に大きく影響するため、製品ごとに最適化されます
- ファーストボンド形成
- ワイヤの先端を加熱してボール状にし、ICチップのパッドに接合します
- 加熱温度、圧力、超音波出力などの条件が精密に制御されます
- 微細なパッドに対しても正確な位置決めが行われます
- ループ形成
- ヘッドを動かしながらワイヤをアーチ状に張り、接続先に向かいます
- 高速動作時の振動や樹脂封止時の流れを考慮した形状設計が重要です
- ループ高さや形状は設計要件に合わせて最適化され、隣接ワイヤとの接触を防止します
- セカンドボンド形成
- 基板パターン、リードフレームなどの接続先にワイヤを圧着し、接合します
- 接合強度と安定性を確保するための品質管理が重要です
- ファーストボンドとは異なる条件で接合が行われることが多く、最適な条件設定が必要です
- テールカット
- ワイヤを切断し、次の接合に備えます
- 装置によっては自動的に次のボール形成まで行います
- 切断面の品質は次のボンディングの品質に影響するため、精密な制御が必要です
《一次情報を追記:自社の装置画像や工程でのこだわりなど》
セカンドボンド時にバンプを先に接合し、バンプにセカンドボンドを行う事でセカンド
ボンドの強度を上げています(試作・開発業務が多いため、速度よりも強度を重視している
使用装置とツール
ワイヤーボンディングには専用の設備やツールが使用されます。安定した品質と高スループットを実現するため、装置選定や保守も重要な要素となります。
ワイヤーボンダー本体
- 自動ワイヤーボンダー
高精度な位置決め機構と制御システムを備えた装置です - マニュアルボンダー
研究開発や少量生産向けに、作業者が手動で操作する装置もあります - 高速マルチヘッドボンダー
複数のボンディングヘッドを搭載し、生産性を向上させた装置です
キャピラリとツール
- キャピラリ
ワイヤを誘導し接合する先端ツールで、材質には超硬合金やセラミックが使用されます - ウェッジツール
ウェッジボンディング用の特殊形状ツールです
周辺装置
- 加熱・超音波ユニット
接合のための熱・振動を与える装置です - 画像認識システム
パッド位置の自動認識や位置補正を行います - ワイヤクリーナー
ワイヤ表面の汚れを除去する装置です - プラズマクリーナー
接合面の汚染を防ぐための前処理装置です
《一次情報を追記:使用中の装置のメーカーや型番、特徴など》
ワイヤーボンダー:UTC-1000 新川製 φ15um~38umまで対応独自のステージ製作により
リードフレーム以外にも対応。
品質管理と信頼性確保
製品の品質と信頼性を維持するため、ボンディング工程では厳格な品質管理が行われています。
検査・評価方法
- 引張試験(Pull Test)
接合強度を数値化して測定します。規格値以上の強度が得られるように条件最適化が行われます - シェア試験(Shear Test)
横方向の力を加えて接合強度を評価します - 断面検査・顕微観察
内部の接合状態を観察し、ミクロレベルでの品質を確認します - 自動外観検査
高解像度カメラと画像処理による接合不良の検出を行います - X線透過検査
樹脂封止後も内部の接続状態を非破壊で確認できます
品質向上のための取り組み
- 前処理(プラズマ洗浄など)
接合面の汚染を防ぐ工程です - 環境管理
温度、湿度、清浄度などの管理により安定した品質を確保します - トレーサビリティ
製造履歴の記録と管理により、問題発生時の原因究明を容易にします - SPC(統計的工程管理)
データ分析による品質傾向の監視と早期対応を実現します - 信頼性試験
温度サイクル試験や高温高湿試験などの加速試験により長期信頼性を評価します
《一次情報を追記:自社の品質基準や不良対策の取組み》
プル試験での接合強度確認による品質確保
主な応用分野
ワイヤーボンディングは、以下のような分野の製品で広く利用されています。
スマートフォンや通信機器
- 高密度・高速信号伝送用チップの内部接続に使用
- SoCやメモリ、RFモジュールなど多様な部品に適用
- 薄型化・軽量化要求に対応した低ループ接続技術が発展
自動車(ECU・センサー)
- 耐振動性・耐久性が求められる接合に対応
- エンジン制御やADAS(先進運転支援システム)など安全機能への採用
- 厳しい温度環境下でも信頼性を確保する特殊技術の開発
医療機器
- 信頼性が求められる診断・測定デバイスに使用
- インプラント機器やウェアラブル医療機器への応用
- 生体適合性を考慮した特殊材料の使用事例も
産業用制御機器
- 堅牢性が必要な製品に適しています
- 工場自動化機器やロボット制御システムで採用
- 長期信頼性を重視した設計と品質管理
《一次情報を追記:自社で納入実績のある具体的な製品名や分野》
関連技術・トレンド
近年では以下のようなトレンドが進んでおり、ワイヤーボンディング技術も進化を続けています。
材料技術の革新
- 銅ワイヤの主流化
コスト・導電性の面で有利だが、酸化対策が必須 - 銅被覆金ワイヤ
金の安定性と銅の経済性を併せ持つハイブリッド材料 - 銀合金ワイヤ
銅の課題を克服する新材料として注目される - 超微細ワイヤ
15μm以下の極細ワイヤによる高密度実装への対応
製造技術の進化
- AIによる工程最適化
画像処理と連動した不良検出・フィードバック制御 - 自己学習型ボンディング装置
過去の製造データを分析し、最適条件を自動設定 - 高速・高精度化
毎秒20本以上のハイスピードボンディング技術 - 非接触検査技術
レーザーやX線を用いた高精度な非破壊検査技術
実装技術の多様化
- 3D実装・マルチチップ対応
高密度パッケージや立体実装への対応が進行中 - ハイブリッド実装
ワイヤーボンディングとフリップチップを組み合わせた複合技術 - シリコンインターポーザ技術
異種チップ間の接続に適用される先進技術 - パワーデバイス向け大電流対応
EVやグリーンエネルギー向けの特殊ボンディング
《一次情報を追記:貴社が取り組んでいる新技術や研究テーマ》